Vo.10 ~日本におけるローズ~

Rose Expo 2025 バラの祭典に

先日、世界バラ会議福山大会などに参加してきました。

世界バラ会議とは、3年に1度開催されるバラに関する国際会議で、バラの研究家、生産者、愛好家、芸術家など、世界のバラ関係者約600~700人が一堂に会します。2022年のアデレード大会に続き今年は16年ぶりに日本で開催され、「バラの街」としても有名な広島県福山市が会場となりました。

福山駅を降りると、バラのアーチがお出迎え。駅から外に出ても、街全体がバラ一色です。週末にはパレードが開催され、MiMCの契約農場があるブルガリアのバラの谷、カザンラクからローズの女王もアンバサダーとして来日して、大会を盛り上げていました。

世界中でも、1つの植物に関してコンベンションが開かれるのは、バラの他にはないのではないでしょうか。

それだけ古くから世界中の人に愛されてきた花だからではないかと思います。

今回、私も研究発表をさせていただく機会があったので、ブルガリア国立アカデミーのチームとディスカッションを進めてきた中からオールドローズである液体のバラについての歴‬史や特徴、そして臨床試験の一部の‬‭発表を行うことにしました。‬‬

世界バラ会議ではモダンローズである観賞用のバラが中心で、品種や育て方、遺伝的な研究などが‬‭発表され、殿堂‬入りの薔薇なども会議の中で決められます。‬そんな中で、オールドローズを代表するブルガリアンローズ(ダマスクローズ)、液体のバラの研究が研究発表として選定され、登壇してきました。

オールドローズの歴史を辿ると、紀元前2000年頃に成立した、古代バビロニアの『ギルガメシュ叙事詩』に記録が出ています。その後古代ギリシャの時代になると、バラは、愛と美の女神アフディテを象徴する花となります。そして古代エジプトではクレオパトラがバラをこよなく愛し、バラの花を浮かべたお風呂に入り、寝室にはバラの花を敷き詰めていたと伝えられていて、その時代にはバラの香油もふんだんに使用されていたとの記録もあります。ダマスクローズの香りは甘く華やかで、バラの中でもこれを超える香りはないと思います。ただ、収穫するとすぐに枯れてしまう。だから花びらだけではなく、液体にする方法で楽しむことが古くから研究され、伝えられてきているんですよね。

そして香を楽しむだけではなく、食品、美容や医療の分野でも使われていたとの記録が残っているローズは、心を落ち着かせたり、女性ホルモンのバランスを整えたりと、さまざまな効果があるといわれています。

私はまず美容の分野でローズの研究を始め、美容液(コンセントレートブライトニングセラム)や化粧水ミスト(オーガニックローズスキンミスト)などを開発しましたが、内側からの美容にも着目し、2023年には飲む美容液、「オーガニックインナーセラムドリンク」の開発に辿り着きました。

これらはブルガリアのオーガニック契約農場で特殊な製法で蒸留し製品化しており、摘みたての甘いローズの香を楽しむことができます。実際に私もブルガリアの契約農場でバラを収穫しましたが、朝摘みしたばかりのバラの花びらは、それはもう驚くほど鮮烈で、華やかで、命そのものでした。この香り、色、質感を、そのままの状態で製品にできる方法が日本にないだろうか?そう考えたのがローズティー(ブルガリアンローズペタル)の開発のきっかけでした。


国産ブルガリアンローズとの出会い

バラは花の中でも害虫がつきやすいものが多く、特に日本の温暖湿潤な気候の中、無農薬で育てるのには大変な手間と技術が必要になります。けれど花びらごと飲むお茶を作るには、日本国内で、しかも無農薬で育てているブルガリアンローズであることは必須条件。ブルガリアンローズと言われていても、よくよく調べてみるとトルコやモロッコ、イランなどブルガリア以外の土地から来ている苗で育てていることも多く、最高級と言われるブルガリアンローズの品質に届くものにはなかなか出会えませんでした。

リサーチをもとに国内の農園を訪ねる中、ブルガリアから苗を取り寄せて育てている農園があるらしい、との情報を仕入れすぐに農園がある山形県を訪ねました。情報をもらったのが5月末。6月初旬のダマスクローズの収穫時期を逃してしまうと、また次の年まで生花を見ることができません。慌ててスケジュールを調整し、農園とのコンタクトを取りました。

朝5時、日の出前に畑に向かい車を降りると、ダマスクローズの甘い香りが漂い、ピンクの可愛い花々が目の前に。生産者の方にお話を聞くと、苗をブルガリアから輸入し、完全無農薬で育てているとのこと。苗が納品されたときには、だいぶ弱っていて本当に育つのか不安だったとお話しされていましたが、今では畑いっぱいに花が咲いていました。

私も日本では初めて収穫に参加してきました。

ダマスクローズは花が開くと香りの成分が外へ逃げてしまうので、早朝、太陽が昇る前に収穫が行われます。そして収穫時期も5月中旬から6月上旬にかけての2週間ほどの限られた時期のみ。完全に開く前のちょっとつぼみの状態が香りが一番強くなるので、サイズを確認しながら慎重に摘み取ります。摘みたてのローズはフレッシュで甘い香りに溢れ、深呼吸を何度もしたくなる、至福のときです。

あまりのいい香りに、その場で花びらをパクリ。摘みたてのローズは安心してそのままでも食べられます。農薬を使って虫の対策をすれば、今の何倍もの収穫量を実現できるのでしょうが、虫や土壌を汚染せず、共存することで良いものを育てる、そんな信念を持った生産者のものをより良い形で製品にする、本質の美しさを見極められるブランドになりたいと、私が常々思っていることです。


奇跡のペタル

ダマスクローズは摘み取った後、すぐに色が落ちてきてしまうので、とにかく時間が勝負。香りも色も花の生命力をそのまま保存するため、摘んだ後一瞬の時差なく、製造工程に入ることが大切になってきます。‬‭何度も試作を重ねてやっと今の色味と香りを実現できました。‬‬

お茶としてティータイムはもちろん、お菓子に入れたり、ポプリやサシェとしても、そのままの姿でお楽しみいただけます。

ローズの花開く美しい一瞬を閉じ込めた花びらそのもの。収穫量が限られているため、今回製品にできたのはほんの少しですが、ローズの生命力や香り、色彩を五感で楽しんでいただけると嬉しいです。